胃・十二指腸潰瘍
潰瘍は、生活状態の「黄色信号」
潰瘍は現代病の一つ
せわしない現代社会ー。忙しい毎日がつづき、ストレスはたまる一方です。これを反映してか、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などにかかる人は少なくありません。 胃や腸は、ふだんは食べた物をどんどん消化してくれる頼もしい臓器ですが、思いのほかストレスに弱く、精神的ならびに肉体的な過労が重なったりするとダウンすることがあります。その代表的な病気が「潰瘍」です。いわば、潰瘍は生活状態に「いま無理がありますよ」と教えてくれる信号のようなもの、ともいえます。潰瘍にかかった場合は、これをきっかけに毎日の生活を見つめ直すことが大切です。
胃や十二指腸がえぐられている
「潰瘍」というと、いかめしい文字が使われていることから、たいへん心配される人がいますが、簡単にいえば「えぐられたキズ」のことです。胃の内壁にキズができれば胃潰瘍、十二指腸なら十二指腸潰瘍と呼ぶわけです。 キズですから、浅いもの深いもの、小さいもの大きなもの、一つしかないとき、二つ以上あるとき、と人によって異なり、さまざまです。重い潰瘍では、出血が起こったり、胃や十二指腸の壁がえぐれるだけでなく、孔があくこともあります。しかし大多数の潰瘍は、それほど恐れることはなく、正しい治療をうければ比較的はやく治ります。
このようにして起こります。
胃壁が消化されて起こる
胃潰瘍や十二指腸潰瘍などのことを総称して「消化性潰瘍」といいます。これらが消化力の強い胃液によって起こるからです。本来「消化」は、食物から栄養を吸収するためにありますから、わたしたちの体にとっては不可欠の働きです。ところが困ったことに、時として食べ物のみでなく、わたしたちの胃や十二指腸も消化されてしまうことがあります。これが、消化性潰瘍です。ふだん私たちの生命を支えている有益なメカニズムが逆に害を与えてしまうわけです。
攻撃因子と防御因子のバランス
結局、潰瘍が起こるのは、消化力の強い胃液(攻撃因子)と、胃や十二指腸が消化されないように守っている粘液、粘膜など(防御因子)の力くらべで、攻撃因子が勝つためです。ふだんは、両者のバランスがとれていて、潰瘍がおきません。しかし、過労や睡眠不足、精神的な緊張が続いたりすると、攻撃因子と防御因子のバランスがくずれ、潰瘍が起こります。
局所のみの病気ではない
少し詳しくいうと、自律神経というものが二つの因子のバランスを調節しています。いろいろなストレスが加わると、脳から刺激が自律神経を介して伝わり、バランスが乱れます。そのような意味で潰瘍は、けっして胃や十二指腸のみの病気ではなく、むしろ心身全体の状態を映し出す病気といえます。
検査は進んで受けましょう
症状は正確に伝えましょう
どのような病気の場合であれ、いま症状(痛みなど)の具合はどうか、いつから始まったのか、これまでに似たようなことは無かったか、などを主治医に詳しく話して下さい。潰瘍の場合も同じです。これが正しい診断、ひいては正しい治療の第一歩です。
検便なども
意外に思われるかもしれませんが、潰瘍の診断では便を調べることもあります。これは、潰瘍により出血が起きているか否かを調べるためです。出血がある場合、血を吐くか、便といっしょに出てくるか、どちらかです。そのほか胃液の検査をすることもあり、これも大切です。
レントゲン検査と内視鏡検査
潰瘍の診断にあったては、レントゲン検査と内視鏡検査(ファイバースコープ)が重要です。それぞれ潰瘍の状態をしらべるために用いられる優れた方法です。 現在の内視鏡検査は管の先に小さなビデオカメラがついており、画像をモニターに映しだして検査します。非常に鮮明な画像がえられ、さらにコンピューター処理も可能です。
こうやって治します
心身の安静が第一
潰瘍の治療は、
- すみやかに痛みなどの症状をおさえること
- 潰瘍をなるべく早く小さくして治すこと
- いったん治った潰瘍が再発(再び起こること)しないようにすること
を目的とします。
わたしたちの体には、とくに手当を受けなくても病気を治す「自然治癒力」というものが備わっています。医学の進歩に伴い高度な手当が可能となった現在でも、この自然治癒力が十分に発揮されるように環境を整えることがいちばん大切です。 潰瘍の治療にあたっても、安静を確保し、自然治癒力を十分に引き出すことが、まず第一です。潰瘍が起きるようなストレスにみちた状態を改めたいものです。また、規則正しい生活を送り、睡眠を十分にとるように心がけましょう。外来(通院)治療でそれが可能ならばよいのですが、どうしても難しい場合には思い切って入院し、わずらわしい社会生活から離れるのも一つの方法でしょう。
くすりはキチンとのみましょう
潰瘍の治療において、心身の安静と薬が二本柱といわれています。心身の安静によって自然治癒力を十分に引き出し、さらに薬の潰瘍治療効果を期待するわけです。薬で大切なのは毎日キチンとのむことと、やめても良いという許可がでるまでのみ続けること。自分の判断でやめると再発しやすく、それを繰り返していると手術が必要となることもあります。
暴飲暴食を避ける
出血している場合や痛みが激しい場合は別として、潰瘍の治療にあたってはあまり食事に厳しい制限はなく、「腹八分目」をめやすに十分に栄養をとってください(牛乳はとくにおすすめできる食品です)。暴飲暴食を避ければ、あまり神経質になる必要はないでしょう。詳しくは主治医の指導に従って下さい。
手術が必要なケース
最近手術するケースが少なくなりましたが、それでも
大量に出血した場合
胃や腸の壁に孔があいた場合
胃の出口がふさがった場合
や、何回となく繰り返し潰瘍が起こる(再発する)場合は、手術も考えなければいけません。
生活を変えましょう。これが、なによりも大切です
家庭と職場のストレスをのぞく
潰瘍は、女性よりも男性におこりやすいことが知られています。およそ、1対3の比率で男性に起こりやすいと考えられています。これは、男性のほうが仕事を持つ割合が高く、そのぶんストレスが多いためとも思われます。 いずれにせよ、潰瘍が起こるような生活状態を変えることが大切です。職場でのトラブルや家庭内のいざこざが和らぐだけで、潰瘍がずいぶん良くなるケースは多いのです。
なにごとも大らかな気持ちで
しかし実際には、社会生活を送っていく上でいろいろなストレスを避けて通ることは難しいことです。ですから、なにか困ったことがあったりしても、大らかな気持ちで受けとめるようにして下さい。そうしながら、徐々に、ストレスにたえる心身を作っていけばいいのです。 人間が生きていく限りストレスは存在するのですから、ストレスとうまくつきあっていくという心構えが大切でしょう。
タバコは禁物
喫煙は禁物です。タバコを吸う人は潰瘍の治りが悪く、いったん治っても再発しやすい事が知られています。タバコはそのほかにも、いろいろな成人病に対して悪い影響を与えることが知られています。これを機会にやめるように努力して下さい。
薬は指示どおりに飲んで下さい
痛みなどが消えてものむ
潰瘍の薬の作用は大きく二つに分けられます。一つは、胃液などの潰瘍を起こす攻撃因子を抑える作用です。胃液がよぶんに出ないようにしたり、中和したりします。もう一つは、胃液に対する粘膜の抵抗力、つまり防御因子の働きを高める作用です。検査結果を参考に適切な薬が出されます。 注意していただきたいのは、痛みなどの自覚症状がなくなっても、潰瘍自体は治っていないことです。この段階で薬をやめると再燃(ぶりかえすこと)することが多く、このようなことを繰り返していると胃や十二指腸が変形したり、難治性(治りにくいこと)潰瘍になったりして、結局は手術をしなければならなくなります。中途半端に薬をのくことは、決して良い結果をもたらしません。
薬の飲み方にもいろいろあります
薬は1日3回食後にのむケースが比較的多いのですが、それだけだはありません。潰瘍の薬に限ってみても、食後だけではなく食間(食事時間と食事時間の空腹時)にのむ薬もありますし、1日4回とか2回のむ方法などがあり、さまざまです。また潰瘍の薬の場合、寝る前の服用が加わるものがありますが、このような薬では、特に就寝前ののみ忘れは禁物です。というのは「潰瘍は夜作られる」というコトワザがあるくらいで、寝ている間は、攻撃因子の胃液が飲食物でうすめられることがなく防御因子よりも強くなりやすいからです。いずれにせよ、それぞれの薬の特性をもとに服用の方法が決められており、間違った飲み方をすると効果が期待できないこともあります。主治医の指示通り、キチンと薬を飲んで下さい。
治りやすいが、再燃・再発もしやすい
<潰瘍症>とは
潰瘍はキチンと治療を憂ければ比較的治りやすい病気です。反面、たいへん再発しやすい性質をもっています。ハシカなどのように免疫ができる病気であれば再発することはないのですが、潰瘍には免疫がなく、何度でも再発する可能性を持っています。また、同じような疲労やストレスにさらされても潰瘍になる人とならない人がいることから、潰瘍になりやすい体質、気質というものが考えられており、潰瘍症と呼ばれています。潰瘍症の人では、いまある潰瘍がいったん治っても再発する可能性が高いわけです。
「治った」あとは再発予防を
まず「完全」に治すこと
<潰瘍症>自体を治すことは、残念ながらなかなか難しいのが事実です。さしあたりは、まず今ある潰瘍を治療し、再び起きない(起きる間隔を少しでも長くする)ように努めます。そのためには「完全」に治すことが一つの方法です。つまり、「治癒」と判定されるまでしっかりと治すことです。場合によっては、ずいぶん時間のかかることもありますが、けっしてあきらめないで治療を続けることが大切です。
必要ならば、ひきつづき服薬を
潰瘍が治ったのちも、治療を続けるケースがあります。これは、潰瘍の再発を防ぐためです。潰瘍を治す薬をのみ続けていれば、その間じゅうは再び起きにくいだろうことは容易に理解できると思います。 また、潰瘍が治ったあとでも内視鏡検査を実施することがあります。潰瘍の状態の観察、あるいは潰瘍とその他の疾患が初期には区別しにくい少数のケースがあるためです。