第7話「フラッシュ」
監察軍の戦艦は、予測した地点を大きく離れてフォールド・アウトした。これは、こちちの予測が間違ったというよりも、監察車の戦艦のフォールド装置の調子がおかしいのであろう。
ともかく、フォールド・アウトの地点かずれたせいで、両艦が接近しすぎてしまったため、ブリタイ艦は主砲を撃てなくなってしまった。それはまた、監察車の戦艦も同様である。
戦局は、艦載機戦を余儀なくされた。
ドウッ!
カタパルトから打ち出される衝撃につづいて、強烈なGが輝をシートに押し付ける。本来、無重力・真空中である宇宙においては揚力発生させるための滑走なぞ必要無く、当然滑走を肩代わりするカタパルトも必要はない。しかし速度0から、エンジンの推力のみで加速した場合、敵に狙い撃ちされる危険性は高い。それゆえ、一挙に戦闘速度まで加速させるために、カタパルトを使用して発艦する。
薄暗いコックピットの中で、計器類のランプだけが明るく輝いている。輝は緊張していた。毎日のようにバルキリーを飛ばしてきたとはいえ、実戦は久しぶりである。まして、宇宙戦ともなれば、工場衛星奪取作戦以来なのである。
「そういえば、羽柴少佐は復帰後初めての実戦じやないてすか。大丈夫ですか?」
輝は自分の緊張を誤魔化すために、翔二に呼びかけた。
「お前さん、誰に向かって言ってるんだよ。
俺も死神の異名をとった男だぜ、戦場は俺が敵を地獄に送り込むところで、俺が敵に連れて行かれるところじやない。」
翔二はそう言って笑ったが、輝はスクリーンを通して、彼もまた緊張しているのがわかった。
「輝、X−290,Y−238,Z−459より、敵機がくるぞ!気をつけろ。」
翔二の声に弾かれたように、輝のバルキリーが跳ね上がるように上昇する。
「あれか!」
前方から見慣れぬ戦闘機群が接近してきた。その向うに、マクロスそっくりの戦艦のシルエットが浮かんでいた。
こうして地球人と監察軍の最初の戦いが始まった。
戦闘は激烈なものとなり、翔二は自分が敵機を堕とすその横で、味方の機体が次々に爆光に包まれていくのを見て、統合戦争の記憶を刺激されていった。
作戦の途上において、むなしく散っていった仲間たちの姿が、今の彼らの姿にダブッて見える。記憶を失っていた3年近い年月の間に、療されたはずの心の傷が疼き始めていた。
「チクショウ!」
怒りのあまり、翔二は叫んだ。
あいつらはメガロードに乗るために厳しい訓練に耐えてきたんだ。そいつらが、まだ艦も見ないうちに死んでいく・・・
「独りで生き残るのは、もう嫌だ!」
そう叫ぶ翔二の瞳は、かって死神と呼ばれていた頃の彼の瞳であった。
「どうしたんですか、羽柴少佐!」
輝は翔二の機体が、真っ直ぐに敵艦に突っ込んでいくのを見て叫んだ。
『仲間たちが迎えにきてるんだ・・・』
一瞬、通信スクリーンに翔二の顔が映る。雑音混じりだが、翔二の声が確かに聞こえた。
「羽柴少佐!」
輝は再度叫んだが、もう翔二の声は返って来なかった。
翔二の機体が敵艦の中に消えていった。おそらく、翔二はそのまま内部に突入し、エンジン・ブロックに直接攻撃をしかけるつもりなのであろう。
翔二の機体が突入して、しばらくした後、敵艦のエンジン部分が爆発を起こした。それに誘爆して、艦全体が光の中に包まれていく。
・・・・・そして、それで終わりだった・・・・・
羽柴翔二少佐の命がけの攻撃により、輝たちは無事に月のアポロ基地に着くことができ、翌日にはメガロードと共に地球へと向かった。
尚、当然のことであるが羽柴少佐の帰還は記録されていない。
メガロードが地球に来たことで、宇宙移民計画は一般人の知るところとなり、計画は新たな段階を迎えた。とは言え、艤装前のメガロードの装備はまだ完全ではなく、艦としての最低能力しか持っていない。これから艤装並びに、移民船として必要な設備を取り付けなければならないのである。
翔二が死んでから、約三ヶ月が過ぎたある日。メガロードはすぺての作業を終了した。後は、移民する人々の収容と、彼らと共に行く乗組員か乗り込むだけである。
その日は、奇しくもメガロードの艦長である、早瀬未沙中佐の誕生日であった。輝やマックスたちは未沙のためにささやかなバースディ・パーティーを開いた。
『Happy birthday Misa.』
そのパーティーは輝の家で開かれた。出席者は未沙と輝はもちろんのこと、マックス、ミリア、コミリア、クローディアである。そして、グローバルからのプレゼント。
総司令であるグローバルは多忙のため、出席はできなかったのだが、わざわざ輝の家まで自らプレゼントを持ってきてくれたのである。それは、グローバルの艦長時代の帽子であった。
「ありがとう、輝。ありがとう、みんな。」
未沙は心からの笑顔で、感謝の言葉を述べた。
夜も深けて、まず子供のいるマックスとミリアが、コミリアを連れて帰った。しばらくして、クローディアが別れを告げた。
「それじやあ、私もそろそろ失礼するわ。」
パーティの後始末がだいたい済んだあと、未沙は立ち上がりながちらそう言った。
「あっ、ちょっと待って。」
輝は慌てて引き留めた。
「えーと、そのぅ・・・」
輝は言いにくそうに、いや、恥ずかしそうに言い淀んでいたが、意を決したように続けた。
「未沙。君にもう一つプレゼントがあるんだ。受け取って欲しい。」
そう言って、輝は小さなビロード張りのケースを手度した。
「輝、これは・・・」
それは裏側に未沙のネームを彫り込んだ、金の指輪であった。
「コ、コレって、もしかして・・・」
未沙の声が期待に震える。しかし、同時にそれが裏切られるかもしれないという不安から、そこから先の言葉がでなかった。
「未沙。結婚しよう。」
輝の意を決した言葉に、未沙の顔がパッと輝く。未沙は声も無く輝に抱きついた。
やがて、輝の家の明かりが消えた・・・
「第8話」へ
目次のページに戻る