第5話「ドッグファイト」
未沙が管制ルームに戻ると、例によってオペレーター三人娘の噂話が耳に飛び込んできた。
『ねえ、ねえ、聞いた?羽柴少佐ってぇ、統合戦争のエースの一人だったんだって。』
『うそーっ!それ本当なの、キム。』
『本当も何も、フォッカー少佐と同じくらいの腕だったそうよ。』
『それじゃぁ、なんで今まで出て来なかったの?』
『それは・・・』
『キムもシャミーも情報不足よ。なんでも第一次宇宙大戦のとき、乗っていたアームド5が撃沈されて、かろうじて脱出したんだけど、不時着したときに頭を打って、記憶喪失になっていたそうよ。』
『えーっ、かわいそーっ。』
『どっから、そんな情報仕入れてきたの?』
『えっ?園田大尉に聞いたのよ。あの人、マクロスに来る前は、旧統合軍アラスカ本部で、羽柴少佐の副官してたんだって。』
未沙はそんな騒ぎを聞きながら、昔の翔二なら、あんな風に騒がれることはなかっただろうなと思った。
昨日、四年ぶりに再会した翔二は、昔とちょっぴり違って見えた。かって彼の瞳の奥に見えた、暗い陰は、もう見えなかった。
どうやら記憶を失っていた間の生活が、彼の心の傷を療してくれたらしい。
「羽柴翔二、入ります。」
翔二は部屋の入口で敬礼をしながら言った。
昨日の騒ぎの処分は、とりあえずグローバル総司令の預かりとなっていた。
「ゆっくりできたかね?」
「えぇ、まあ。」
翔二は頭を掻きながら苦笑した。
短い間ではあったが、マクロスに居たこともあったので、園田大尉をはじめ、顔見知りは多い。性格が明るくなったこともあって、昨夜は彼らに囲まれっぱなしであったのだ。
「さて、君の処分なんだがね・・・」
「やっぱり、重いですかね?」
翔二は他人事のように笑って言った。
「君は本当に明るくなったな。いや、強くなったと言った方がいいかな・・・いいことだ。」
グローバルは言葉をきって、愛用のパイプを取り出した。
「一般にはまだ極秘となっているが、我々は今、宇宙移民を計画している。
そのための移民宇宙船も、現在、月基地で建造中だ。」
「宇宙移民ですか。大きな計画だ・・・で、俺にそれに乗り込めって言うんですか?」
「いや、艦長以下、軍関係の乗員は、ほぽ決定している。君にやって貰いたいのは、それに乗り込むバルキリー隊の訓練だ。
隊長の一条少佐もよくやってくれてはいるが、パイロットには、ここ2,3年の経験しかないものが多い。」
「ふむ、それはやりがいが有りそうだな。」
翔二は不敵な笑みを浮ぺた。
「よろしい。さっそく今日から初めてくれ。
それから君の階扱は少佐だ。昔の階扱と同しだか、これをもって昨日の処分とする。
ちなみに、移民宇宙船の艦長は、早瀬未沙少佐の予定だ。」
「彼女が・・・
そういえば、彼女も随分と明るくなったようですね。」
「ああ一条少佐のお陰だよ。」
翔二は部屋を出ようとしたところで振り返り、
「そうそう、フォッカーのスカル1、今は一条少佐が使っているそうでずね。」
それだけ言うと、部屋を後にした。
「一条、輝か・・・」
翔二は低く呟いた。その名に記憶はあった。フォッカーが、自分の弟のように語っていた名前だ。
スコープ・サイトが翔二のバルキリーを捕らえた。輝は、今度こそと思いながらロックオンしようとする。
しかし、その時すでに翔二の機体はスコープから消えている。輝はまたもや翔二を見失ってしまった。
バルキリーのレーダーには、事実上死角はない。だが、パイロット自身はそうもいかなかった。翔二は、巧みにその死角に滑り込んでくるのだ。
「くそーっ!」
くやしがる輝を尻目に、翔二は機体を翻して、輝の機体の後ろについた。
ほんの数時間前、輝は初めて羽柴翔二と正式に対面した。
「よろしく、羽柴少佐。」
そう言った口調は、こころなしか事務的であった。
というのも、ガンルームに入って来た翔二の隣に、未沙が立っていたからである。もちろん、未沙は任務として翔二と一緒に来たのであり、輝も意識してそうしたわけではなかったので、自分自身、驚いていた。
これまで、輝が未沙に対してこのような感情を抱いたのは初めてであった。もっとも、かって彼がミンメイに夢中であった頃、同じ様な気持ちを、彼女に持ったことはあった・・・
「一条君・・・君の事はフォッカーからよく聞かされたよ。
早速だが、バルキリー隊の隊長である君の実力が知りたい。」
そう言って、翔二は輝をバルキリーに乗せて連れ出したのだ。
二機は追いつ追われつの飛行を、延々と操り返していた。しかし、
「そうか、逆手をとればいいんだ!」
輝は翔二の機体が、彼の視界から消えた瞬間、自らの死角へ回り込んだ。次の瞬間、スコープの真ん中に、再び翔二の機体を捕らえた。
翔二の素早い回避運動を逆手にとった、輝の作戦は見事に成功した。
「まいった、まいった。フォッカーの話しは本当だったぜ。」
翔二が無線で話しかけてきた。
「単刀直入に言う。一条少佐、君はパイロットとして、すぱらしい才能を持っている。
それは、あのフォッカーさえも凌ぐものだ。」
マクロスに戻った翔二は、輝にそう言った。
「まさか!僕なんか先輩の足下にも及びませんよ。」
それは、謙遜などではなかった。マックスやミリアたちへコンプレックスが、輝にそう言わせていた。
「いや、昨日の突っ込みといい、さっきの反撃といい、見事なもんだった。」
「でも、僕なんかより、マックスやミリアのほうが・・・」
翔二の気さくな話し方が、ふとフォッカーの話し方にダブリ、思わず輝の本音がこぼれる。
「昨日のブルーとレッドのバルキリーのパイロットだな?
確かに彼らも素晴らしい才能を持っていると思う。聞くところによると、すぺての事に対してそうらしいな。まさに天才ってやつだな。
しかし、パイロットという限定した才能に関しては、君の方が上だとみるがね。」
翔二はそういって、輝を真っ直ぐと見つめる。
輝は彼の言葉に、その瞳に、フォッカーの面影を見た。
「もし、君にその気があれば、君の才能を目覚めさせる手伝いをさせて貰えないか?
フォッカーの代わりに・・・」
「よろしくお願いします。」
そう言って握手をかわしたとき、既に輝の心には嫉妬はなかった。
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