第3話「カム・バック」
黄昏映す 窓辺へと舞いおりる
きらめくそよ風 吸い込んで
空を見るとき・・・
その夜、フレスコ・シティーにミンメイの新曲である『天使の絵の其』が響きわたっていた。
ミンメイは、半年前にマクロス・シティーを去って後、様々なシティーで歌い続けてきた。そしてその集大成が、このフレスコ・シティーでのコンサートである。
半年前、失蹄という自らの我が儘によって、ミンメイはファンの信頼を失っていた。もし、このコンサートが失敗に終われば、彼女のカムバックは、おそらく数年延びるであろうというのが、関係者のよそくである。
しかし、コンサート会場に詰めかけた多くのファンたちは、ミンメイの歌に熱狂している。
その熱狂の中、スタンドの最後列から、ステージを見つめる二人の男がいた。
「いい調子じゃないか。このぶんなら、コンサートは成功だな。」
「ああ・・・おそらくな。」
すらっとした体格に、長髪のその男は、もう一人の男の言葉にそう答えると、会場の出口へと向か
った。
「おい、最後まで見なくていいのか?」
「もう大丈夫さ。それに、お前の方が時間だろ。」
「そうだな。」
そんな会話の後、二人の男はコンサート会場を後にした。
しかし、二人は知らなかった。ステージ上のミンメイが、去り行く二人の姿を、いや、長髪の男の姿を見つめていたことを・・・
ミンメイは知っていた。このコンサートのために、彼が陰から援助してくれていたことを。いや、このコンサートだけではない。この半年間、彼はずっと自分を見守り続けてくれたのである。
悲しい出来事が ブルーに染めた心も
天使の絵の具で 塗りかえるよ
思いのままに
彼−カイフンに届けとぱかりに、ミンメイは熱唱した。そして、その瞳には涙が光っていた。
その日、マクロスの軍本部は、蜂の巣をつついたような騒ぎが巻き起こっていた。
フレスコ・シティーのバルキリー駐留基地から、VF−1Aが盗まれたのだ。この捜索のため、朝から無数のバルキリーが離着陸を繰り返している。
輝は、この日何度目かの補給のため、基地に帰還した。
「まったく、この騒ぎのおかげで、再編中のうちの隊は、ローテーションか滅茶苦茶になっちまったぜ。」
「困ったもんですねぇ。」
ちょうど同じ時に補給に還って来ていたマックスが、輝のぼやきに応える。
「笑い事じゃないぞ。現に、今のマクロスにはスクランブル要員以外は、俺とお前の隊しかいないんだぞ。」
「大丈夫。先輩と僕がいれば、大抵のことには対処できますよ。」
マックスは自信満々に言った。
「それに、ほらっ!」
マックスの視線の先で、真紅のバルキリーを先頭とする一隊がタッチ・ダウンしてきた。
「ミリアか・・・」
碓かに、マックスとミリアの天才コンビの前に敵はいないように思えた。しかし、俺だって…輝はそう考えて、自己嫌悪に陥った。その思いは、嫉妬に近いように思えたからである。
「マクロス・シティーの北東より不明機1、急速接近中。現在距離2000。待機中の全機、スクランブル!」
同日、14時15分。つまり、ミリアの隊が補拾のために帰還してから約30分後。未沙の命令が、スビーカーから各部署にとんだ。
輝、マックス、ミリアはただちに愛機に飛び乗った。すでに、3人の隊のバルキリーは補拾を済ませている。
電源車が機体に取り付き、エンジンを始動させる。輝はプリ・フライトチェックを行ないながら、管制塔と連絡をとる。しかし、ただでさえ混乱気味であった今日の菅制ルームは、この騒ぎで混乱の極みに達していた。
輝は未沙の苦労を想像しながら、独自の判断で滑走路に出て、ランディングを開始した。その行動に追従するように、管制塔から指示が来る。
輝に続いて、マックスとミリアのバルキリーが離陸した。しかし、管制系統の混乱のため、速やかに離陸ができたのは、この3機だけである。
「三機か。なかなか手強そうだな。」
不明機に乗っているのは、ミンメイのコンサートでカイフンと一緒にいた男であった。男は、レーダ一に映る三機の機影を、楽しそうに見つめていた。
まず、マックスとミリアがしかけた。
ブルー一とレッドの機体が鮮やかに宙を舞う。天才同士ならではのコンビネーションである。
「赤い方が、僅かに反応が遅れるな。」
男は、わざとマックスに後ろをとらせた。
ミリアはマックスをサポートするため、マックスの機体より軸線をずらして、これを迫う。次の瞬間、男は機体を急旋回させた。マックスも急旋回でこれを追うが、一瞬だけミリアが遅れた。
男はミリアに向けて突っ込み、激突寸前に機体を捻って回避する。後ろにつけていたマックスは、ミリアとの衝突を避けるためにバランスをくずした。ミリアも同様である。
「この戦法、あのタイミングのとりかた・・・」
未沙はレーダーとスクリーンを見ながら、つぶやいた。
かって、このような戦法を使う男がいた。その男の名は・・・
男がマックスたちを振り切った直後、輝がアタックをしかけた。男はそれを間一髪でかわしたが、もし輝が発砲していたら、男は間違いなく撃墜されていた。
「クッ!鋭い突っ込みだ。んっ?今のはスカル1・・・バカな、あいつは死んだはずだ!」
輝はその鋭い突っ込みゆえに、かわされた後、大旋回をしいられ、その間に男は驚愕しながらも、マクロスに向かった。
滑走路に降り立った男を、警備兵が取り囲む。その外側に輝やマックスが立つ。
「翔二・・・翔二なんでしょ!」
いつの間に来たのか、未沙が警備兵をかきわけながら言った。
「未沙か?」
男はへルメットをとりながら、振り返った。
「羽柴翔二、元少佐。ただいま帰還した。」
男−いや、羽柴翔二は未沙に敬礼をしながら言い、輝はその光景を複雑な気持ちで見つめていた。
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