第1話「ニユー・シティー」
夏が、もうそこまで来ていた。
二年半前のボトルザー基幹艦隊の攻撃により、地球の地軸に狂いが生じたため、ここアラスカの気候は、四季に満ちた温暖な気候に変化していた。
その暑い陽射のなか、一条輝以下3機のバルキリーがマクロス・シティーの町並を、眺めるように飛行している。
「隊長、マクロス・シティーもずいぶんと復輿したもんですね。」
輝の機体の右横を飛ぶ、コーネフ伍長がしみじみと言った。
「ああ、一時はどうなることかと思ったがな。」
輝も心からそう思った。
半年前、カムジン=ラプラミズー党は、修復した戦艦をもって、マクロス・シティーに攻撃をしかけた。それは極度に高まった、ゼントラーディ人たちの不満の表れであった。
この攻撃に対し、グローバル総司令は二年ぶりにマクロスを浮上させた。
その結果カムジンを撃退はしたが、マクロス自身も傷つき、もう永久に動くことはできなくなった。しかし、マクロスは新統合政府のシンボルでもあることから、戦艦としてではなく、新統合政府の中枢としての改修がおこなわれてきた。
そしてそれと同時に、カムジン一党にによって破棄された町並みも、回復の兆しを見せはじめてきたのである。
輝のバルキリーが所定の位置に停止すると、すぐに整備員がとりついてきた。輝は彼らに愛機をまかせると、パイロット・ルームにむかった。そこで着替えたあと、マクロスの管制センターまで報告書を提出しに行かなければ、任務は終わらないのである。
これが、はなはだ面倒くさい。特に今日は、家に帰ってから引越しの荷物を整理しなければならないのだ。
半年前、官舎とはいえ白宅を失った輝は、この半年間、マクロス艦内の狭い寮生括を強いられてきたのだが、非番であった昨日、ようやく新官舎に引っ越しできたのである。
「隊長、私がかわりに行ってきましょうか?」
コーネフがそう言ってくれたが、下手に未沙に見つかると後でうるさいので、自分で行くしかなかった。
「ありがとう。でもいいよ。」
「わかった。少佐が怖いんでしょ。」
いつの間に来たのか、マックスが言った。
「マックス!」
「まあ、まあ。グローバル総司令がお呼びですよ。」
マックスは輝の怒りを軽くいなしながら言った。
「一条輝大尉、入ります。」
「まあ、そう堅くならず座りたまえ。」
グローバルはそう言いながら輝に椅子を勧め、自らもソファーに腰をおろした。その顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。
「一条君、君は字宙移民計画のことは知っているね。」
「はい。」
そして、その一番艦の艦長には未沙が内定されていることも知っていた。
「先日、月面のアポロ基地より2つの報告が届いた。1つは、最近開発したフォールド・センサーが、艦隊規模のデフォールド反応をキャッチしたということだ。」
「艦隊規模の…」
もし、それらが地球に来たとしたら、今の地球にはどうすることもできない。
「いや、なに。太陽系の遥かむこうじゃよ。」
「そうてすか・・・」
輝は胸をそっとなでおろした。
「そしてもう1つ。アポロ基地で建造中のSDF−2の完成の目処がついたそうだ。」
「メガロードが?」
「そうだ。もっとも、就航はまだ先のことだがね。とにかく、こいつに乗り込む乗員の選抜と訓練
を開始しなければならん。」
グローバルは、ちょっと間を置いて輝を見つめた。
「まず手初めに、スカル中隊を大隊に再編して配備しようと思う。もちろん、編隊長は君にやってもらいたい。
どうだ、引き受けてくれるかね?」
「喜んで!」
輝は即答した。こちらから志願したいくらいなのてある。
「よろしい。君は本日付けで少佐だ。」
「俺が・・・少佐・・・」
輝は嬉しかった。フォッカー先輩も少佐だった。そして、今の未沙もそうである。
「そして、これは極めた個人的な頼みなのだがね・・・」
グローバルはパイプを取り出しながら話を続けた。
「私は早瀬君の御父上をよく知っているし、早瀬君白身も小さい頃から知っておる。」
「・・・・」
「小さい頃の彼女は、本当に明るい顔で笑っていた・・・
しかし成長した彼女は、滅多にあの頃の笑顔を見せることはない。なんとか、彼女にあの笑顔を取り戻してやって欲しい。」
「昔の笑顔・・・」
「そうだ、ライバー君が死亡する以前のな・・・」
そう言って、グローバルは静かに煙をくゆらせた。
「聞かせて貰えませんか?ライバーって人のこと。」
輝は、意を決して尋ねた。
「そうだな・・・」
グローバルは、未沙とライバーのことで知る限りのことを語った。
二人の生い立ちと出令い。そして別離・・・。未沙がなぜ軍人を志したのか。なぜマクロスに乗ることになったのか。
それは、まさに白い迫憶と呼ぶにふさわしい物語であった。
輝は帰りに管制センターに寄ってみたが、末少は既に帰った後だった。
荷物の整埋の手伝いを頼むつもりだったのだが、あてが外れた。輝はしかたなく、マクロスを出て新しい官舎に帰った。
家の前まで来たとき、紙袋を抱えた未沙が立っているのを見つけた。
「もう帰って来る頃だと思ったわ。」
「どうしたの?」
「どーせ、まだ荷物の整理が終わってないんでしょ。それと、御祝いをしてあげようかと思って。」
「お祝い?
「引っ越しと昇進のお祝いよ。」
そう言って、未沙は抱え込んだ紙袋を示しながら笑った。
もともと大した荷物もなかったことから、未沙が料理を作っている間に、ほとんどの荷物が整埋できた。
そのあと、二人は未沙の作った御馳走で、ささやかな祝宴をあげた。
未沙の帰った後、輝はシャワーを浴びてから、ベッドにもぐり込んだ。
その夜、輝は未沙の夢を見た。その夢の中で・・・未沙は笑っていた。それは彼が滅多に見ることのできないような、極上の笑みであった。
しかし、その笑顔は輝でなくライバーに向けられたものであった。
翌朝、悲しい気持ちで目を覚ました輝のもとに、意外な報告が届いた。
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