ミラクルミルク

命の水・牛乳の秘密に迫る 

 「牛乳って、牛乳のなる樹があるんでしょう?」

 「牛乳は工場で作られて、パック詰めにされるんだよね」

こう思っている子どもたちも少なくありません。

自然の中で牛と酪農家によって生み出される牛乳は、

命にあふれた飲み物です。

牛が草を食べ、それを乳に変える不思議。

もしも1頭の乳牛が生み出す牛乳をバイオテクノロジーで作るとなると、

何百億円もかかるといわれます。

また牛乳からできる乳製品は、牛乳の面白い性質から生まれました。

1本の牛乳にはさまざまな不思議がいっぱい詰まっています。

牛乳が持つ奇跡のような世界を、一緒にのぞいてみましょう。

 

緑の草が赤い血液となる

  命の水・白い牛乳になる神秘のメカニズム。

真っ白な牛乳は、どうやって作られるか知っていますか?子供を産んだ雌牛は、緑の草を食べて、それが栄養となって赤い血となり、血液の栄養は乳房で取り込まれ真っ白な牛乳へと変身するのです。

 牛乳を1リットル分作るには、400〜500リットルものたくさんの血液が乳房を循環することが必要になります。乳牛が1日に出す牛乳の量は、平均20〜30リットル。ですから牛は毎日1万リットル前後の血液を循環させて、牛乳を作りだしているのです。

 それでは、草が乳牛のお腹の中でどうやって牛乳へと変身していくのか、その神秘のメカニズムに迫ってみましょう。

 

    牛は4つの胃を持っている

 乳牛はたくさんの草を食べますが、それを消化するために4つの胃を持っています。4つの胃の中で一番大きいのが第4胃。大人の男性が2人入るくらいの広さを持ち、重さは約60キログラム。ここには多数の微生物が棲んでいます。人間の胃では消化できない草を牛が消化できるのは、実はこの微生物のおかげなのです。

 まず乳牛は下の歯と唇と舌を使って草をむしりとり、第1胃へ送り込みます。ここで微生物が食べた草を消化しやすくして第2胃へ送り、もう一度口にもどして臼のような形をした丈夫な奥歯ですりつぶします。そして、もう一度反すう(第1胃、第2胃、第3胃へと送り、また口に戻す)を繰り返し、最後に人間の胃にあたる巨大な第4胃で消化します。

 乳牛はいつも口をモグモグさせていますが、1日の反すう時間は何と6〜10時間、1分間に40〜60回咀しゃくしているのですから、当然ですね。1日に90〜180リットルも出るヨダレは食べ物を飲み込みやすくしたり、微生物の働きを活発にして消化を助ける働きをしています。

 消化された栄養素は血液に流れ込み、乳房へと送られて乳になります。乳牛の乳房の周りには太いうねうねとした血管が何本も通っていますが、たくさんの牛乳を出す乳牛ほどそれが目立ちます。それは、あの中に牛乳の素がたくさん入っているからなのです。

 

    第1胃は奇跡の牛乳工場

 さらに詳しく、草から栄養価の高い牛乳に変身するメカニズムを見てみましょう。草が乳牛の口の中で大まかに噛み砕かれた後、最初に送られるのが第1胃ですが、ここで草は大きく変身します。草を牛乳に変える神秘の秘密はこの第1胃にあるといってもいいくらい大事なところです。広くて居心地のいい第1胃に棲んでいる微生物のなかで、人間が食べても消化できない草の繊維質をここで消化するのは、主にバクテリア(細菌)です。

 人間の場合は、胃が直接消化、吸収しますが、乳牛の場合は、胃の中にすんでいるバクテリアが草を消化します。そして、消化すると同時にバクテリア自身が、タンパク質へと変身します。そして第1胃で増殖したこれらのタンパク質が、第4胃以降へ流れ、消化、吸収されて牛の栄養になります。つまり草を食べているのは本当は第1胃のバクテリアで、牛は主にこのタンパク質に変身したバクテリアを食べていることになります。

 栄養価の低い草もタンパク質に変身することで、アミノ酸をたくさん含む栄養価の高いタンパク質へと変わるのです。

 また第1胃のバクテリアによってすべてのビタミンB群が合成されるなど、草は大きな変化を遂げます。そうして牛の本当の食べ物として第4胃に入っていきます。このような過程を経て、牛乳の各成分素材が揃ったことになるのですから、第1胃は‘奇跡の牛乳工場’といってもいいでしょう。

 

    牛乳への変身

 第4胃で消化された栄養素は血液に取り込まれ、肺で酸素を取り入れ心臓から全身に送り出されます。その中にはブドウ糖、アミノ酸、ビタミン類、脂質、無機質などあらゆる栄養素が含まれています。これらの栄養素を乳房を走る血液の細胞動脈から取り入れて乳に仕上げるのは、乳房の中の乳腺細胞と呼ばれるところです。

 ここで牛乳の主な成分である乳糖、タンパク質、乳脂肪が合成され、これに加えて血液中からもタンパク質を取り込み、さらにカルシウムなどのミネラル、ビタミンなどを取り入れて真っ白な牛乳が生まれるのです。

 作られた乳は乳管を通って乳腺槽という大きなプールに貯められます。そして温かい布で乳房を拭いて揉んだり、赤ちゃん牛を近づけたりして刺激を与えると、泌乳を促すホルモンが働いて、乳頭からほとばしるようにミルクが出てくるのです。

 のんびりと穏やかな目をして、草を食んでいる乳牛たち。その体の中で毎日、こんな神秘的なことが繰り返されていると思うと、何だか不思議な気がしませんか。

 人が食べることのできない草を乳牛たちが食べて、人にとって命の水といえるミルクを生み出してくれる。これはやはり一つの奇跡といってもいいのかもしれません。  

  

 

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