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サンタクロースになろう

 「雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう〜」ここ日向ではまずあり得ないことではあるが、山下達郎のこのメロディが流れ始めると思い出すことがある。初めてサンタクロースになったのは、息子が幼稚園に入る前に託児所に通っていた頃のことだった。12月のある日、先生からクリスマス会のときにサンタの扮装で子供たちにプレゼントを渡して欲しいと頼まれたのだ。平日の午後ではあったが、日頃お世話になっていることでもあるし、恩返しのつもりで引き受けた。

 託児所の2階が園長の自宅になっており、着替えはそこでするようにと聞かされていた。子供たちに見つからないように2階に上がり、着替えている最中のことだったが、いきなり園長の夫が帰ってきた。挨拶はしたものの、どうも様子がおかしい。昼間から酒を飲んでいるようだ。なんとなく嫌な予感がした。案の定「何で人様の家に上がり込んで居るんだ?」とからんできたのだが、あいにく園長が不在で先生が取りなしても聞き入れる様子はない。わざわざ仕事休んでサンタクロースになっているのだから、当然ながらこちらも相当頭にきて酔っぱらいを睨みつけた。結局自宅で待機できなくなり、階下に移動することになったのだが、子供たちに見つからないように台所の流しの裏まで床を這って移動した。出番まではシーツを掛けられて待つことになったが、寒いやら悔しいやらで放棄して帰ろうかとも思った。

 クリスマス会も佳境を迎え、ようやく出番が回ってきたのだが、子供たちへのプレゼントの入った大きな袋を抱えて登場すると、くしゃくしゃの笑顔と大きな歓声が出迎えてくれた。そんな姿を見ただけで、さっきまでの怒りも消え泣きたくなるような感動に包まれた。サンタクロースを心から信じている子供たちとふれあうことで、逆に素直な気持ちを教えてもらったようなものだ。今までで一番心に残るクリスマスの出来事だったような気がする。危うくサンタクロース不在の事態に追い込みそうになった酔っぱらいのおじさんは、その数年後に酒で身体を壊して亡くなったとのことである。

 今回はクリスマス企画としておまけの話も付けよう。以前、職場の若者たちがサンタクロースやトナカイに扮して、イブの夜にプレゼントを配達すると言う企画を行ったことがある。おもしろそうなので話にのってプレゼントを託したのだが、我が家が最後と言うこともあって数人のサンタクロースとトナカイが上がり込んで宴会を始めたのだ。うちの子供たちは元々顔を知っている連中なので、プレゼントを手渡されても全然うれしそうな雰囲気ではない。やはり朝起きたら枕元にプレゼントが置いてあると言うパターンが望ましいのだ。偽物がやってきて酒飲んでわーわー言ってるのだから、夢を壊された子供たちには迷惑な話である。

 寝る前にポツリと「本物のサンタさんは来てくれるかな?」と言われて、困り果ててしまった。夜中に近所のローソンに駆け込んで、ブーツの形のお菓子の詰め合わせを買って枕元に置いたのだが、翌朝うれしそうに「サンタさんが来てくれたよ」と報告する子供たちの姿にホッと胸をなで下ろしたものだ。クリスマスは大人も楽しまないといけないとは思うが、子供たちの物差しで過ごし方を考えるのが一番良いと思う。子供たちのうれしそうな顔が最優先なのだ。 

(00/12/20)