超時空要塞
マクロス
仮想ドラマモード
なないマスターの多忙な1日


BY なない

−−−喫茶「バリエーション」の稼ぎ時−−−

 今日は朝から、やけに忙しかった。

 開店してから30分後、ポツリポツリとお客さんが入り始めたなと思ってたら、昼前にはもう満杯。
 2時前には、カウンターまで埋まってしまったのだ。

「頼む、トイレにいかせてくれ。いかせてくれたら、閉店まで休みなく働くから、ね?」

 俺は、かなりキテたのだ。

 まだ朝のうちは、尿意もたしかにあったんだけど、そのうちすくだろうとタカをくくっていた。
 が、しかし・・・。

「ああ、こんなことなら早く行っときゃよかった。朝から満員御礼なんてハシャいでないで、さっさとすませとくんだった」

 今頃悔やんで、どうするというのだ?

「マスターが悪いんですヨ、ちゃんと家でしてこないからぁ」

 カウンターに入ってきたアヤちゃんが、下げてきたカップや灰皿を洗い始めたながら、そう言った。

「そうはいってもね、出るときとそうでないときが・・・」

「もう! はやく行って来なさいってば!!」

 アヤちゃんはちょっと恥ずかしそうに、そう促した。

「サンキュー、3分で戻ってきまーす」

「2分で!」

 ありゃりゃ、それはつれない。

「了解、りょーかい」

 これ以上は、俺のボウコウが保たないので、さっさとトイレに駆け込むことにした。

「あ、マスター、お得意さまのおな〜りぃ!」

「へっ?」

 誰だ、こんな時に来るヤツは。

「よ〜う、来たよーん。なんか奢りんしゃい!」

 出たか、妖怪「ケ・セラ・セラ」。

「その挨拶は、心臓に悪い! パターン変えましょうね?」

「へ? 挨拶なんかじゃないべ?」

 まったく、この人は・・・。

「まさか、マジ?」

「マジ」  

「・・・なんかイヤなことでもあった?」

「ううん、絶好調」

「・・・」

「アヤちゃーん、オレ、ホットね」

「ハーイ」

「ちょっと、待てぃ!」

 しかし、俺ののボウコウが待ってくれない。

「ちょっと、俺が帰ってくるまで待ってろ、な? いいか、アヤちゃんも何も出しちゃダメだよ! いいね?」

 それだけ言うと、俺は今度こそトイレへ駆け込んだ。

 しかし、やっとこさトイレをすまして戻ってみると、あれだけ念を押したにもかかわらず、“絶好調”中尉の前にはしっかりとホットが置かれていた。

「・・・遅かったか」

「ごめんなさーい、マスター」

 アヤちゃんが、胸の前で手を合わせて謝ってきた。

「仕方ないなぁ。けど、なんで出しちゃったの?」

「前金でもらいましたから」

「ふ〜ん・・・って、まさか! そんな!!」

「ホントですよー、ね?」

 そう言うと、アヤちゃんは澄ました顔でコーヒーをすすっている“お客様”鳥坂中尉の方に顔を向けた。

「おうよ、俺様はレッキとしたお客さんだよ? カネ払ってんだから、それなりのサービスとか、ないの? もっとバイトにカワイイ女の子入れるとかさ。シャミーさんみたいな・・・」

「え?」

「ハッ! い、いやいや、何でもないよ。何でも」

 いまさら何を照れてるんだか。
 知らないのは、シャミーさんだけじゃないか。

「ウチはパブじゃないんだから、そんな無駄なことしないの」

「そーよ、あたしひとりで充分なんだからぁ。あ、それとも何? あたしひとりじゃ満足できないっての!?」

 あーあ、やぶ蛇だな、こりゃ。
 これで、しばらくはウチの敷居をまたげないな、中尉は。

「ふ、深読みはよくないなあ。例えばの話だってば、ね?」

「例えば? やっぱり満足してないんじゃない!」

「よしなさい、もう。この忙しいのに」

 放っときゃ、いつまでもやりかねない。

「そうそう、看板娘は働いてこそ光るのだ!」

「もう! 調子ばっかいいんだから、中尉は!」

 そう言うと、アヤちゃんはレジの方へすっ飛んでいった。
 やれやれ・・・。
 心休まる暇もないってか。

「あ、マスター、またまたお得意さまのご来店!」

「何!」

 誰だ、今度は。

「ちわー。お久し、おひさし。あらら、結構混んでるわ」

「いらっしゃーい、諒ぐんそー!」

 レジの中から、アヤちゃんが声をかけた。

「“いらっしゃいましたー!”はヤバいか、アハハ。なんてったって、鳥坂中尉には心臓に悪そう・・・」

 と言いかけたとたん、みるみるうちに諒軍曹の顔が青くなっていく。

 ま、当然だわな。

 戦闘中はどうか知らないけど、プライベートではこちらの中尉さんのほうが、どうも一枚上手らしい。
 実際、今もとんでもない顔してニラみつけてるからな、“絶好調”中尉は。

「お、リョーちゃん。ちょおおおっと、ここに座りんしゃい」

 おお、中尉の目が座ってる。

「ちゅ、中尉。いらっしゃったんですか? き、奇遇だなあ」

逆に、軍曹の目は飛んでいる。

「いらっしゃい、諒さん。なんにします?」

「ア、アイス抹茶ソーダ!」

「そんなのメニューにないですって」

「く、くりーむめろんみっくすじゅーす!」

「それもないです」

「か、火星ラーメン!」

「店が違うでしょーが!」

 ダメだこれは、すっかり動転してる。
 それをニヤニヤ横目で見ていた鳥坂中尉は、自腹で飲んでる(当然だ!)コーヒ−を大事そうにすすりつつ、こう言った。

「お前、ほんっとに陸の上じゃあ、人間変わるよなー。あ、戦闘中の方が、異常なんだっけか?」

「な、なんですか毎回、毎回。僕はいつも、いつも通りなんですってば!」

 さっきまでの低姿勢な態度はどこへやら、軍曹がいきなりムキになった。

「ほ〜う? いっつも戦闘中の記憶が一部、ぶっ飛んでるクセに、“いつも通り“とはよう言った! ほめてつかわすゥ」

 なにを思ったか、突然鳥坂中尉がオネェ言葉になった。
 ・・・なにも、仕草まで変えなくてもいいのに。

「き、気持ち悪い。他のお客に迷惑でしょーが!」

「そーだ、そーだ」

 これは、俺。

「そーよ、そ−よ! 迷惑よ、公害よ、イン○ンタムシよ!!」

「アヤちゃん! フツウ、そこまで言うかぁ!?」

  さすがの鳥坂中尉も、この暴言(!)にはすかさず反抗した。

「せっかく人が気ィ回してだな、この場をリラックスさせてやろうと自らの恥も外聞も顧みず、一服の清涼剤たらんとして体を張ってボケてんのはだな、そもそもみんなの為を思ってこそ為し得るワザなわけであって・・・」

「もういい、わかった。わかったから、な?」

 中尉、語り始めると長いんだよな。

「ごめんなさ〜い。アヤ、そんなつもりじゃなかったのよーぅ」

「じゃ、どんなつもりだったんだ!!」

 3人でツッこむ。

「・・・ちょっとぉ、そんなに寄って集って言うコトないじゃないの!」

 これは効いたのか、アヤちゃんがちょっとショゲた。

「いやあ、いまのはヒドいですよ、ちょっと」

「男じゃ、黙ってられないね」

 これは、言われた張本人。

「まったくだな」

 ここぞとばかり、アヤちゃんをやり込める俺達。

 結構みんな、遊ばれてるからなあ、彼女に。

「なによ、なによー。いいもん、職場放棄してやるんだから!」

「ああっ、それはイカン!」

「イイもん!」

「よくないっ!」

 給料やらんぞ、給料を。

「ふ〜んだ! もう知らない!」

 レジの方へ再び向かうアヤちゃん、かなりおこってるみたいだな、ありゃ。

 ちょっとやりすぎたかなあ、などど3人で反省してるその時、店のドアが開いた。

「いらっしゃいませ。・・・あ、あらら! お久しぶりですぅ、元気でしたかあ? 最近来ないから、どうしたのかと心配しちゃった! さ、どうぞ!」

 いきなりアヤちゃんの嬌声が聞こえた。

「誰だ! こんな馴れ馴れしく口の効いてもらえるヤツは!」

 3人で叫んだのは、言うまでもない・・・。

「こんにちは。あれ? 混んでるな、やけに」

 入ってきた男は、アヤちゃんにさらっと応えると、店内を見回し、何かに気づいたのか、ふと眉をしかめた。

「そーなんですよ! トンチでマヌケなバカ軍人が二人もカウンター席占領してるんですから、中尉の指定席が埋まっちゃってるんですぅ」

 なんと、園田中尉であったか、これは納得。
 しかし、ここに納得できない男たちが二人。何か言いたげな顔でお互いを見つめていた。

「トンチでマヌケなバカ軍人!?」

「いくらなんでも、それは・・・」

 諒軍曹は目線を園田中尉に向けると、あらためて鳥坂中尉のほうに向き直った。

「いくらなんでも、それはないッスよねー。そりゃ確かに園田中尉はブレード隊のリーダーだから、戦闘能力は高いし、状況判断は的確だし、戦闘中に誰かさんみたいにヒートアップしないし・・・」

「おまえもとうとう、認めたか」

 腕組みしつつ、鳥坂中尉が言った。

「は? 何をです? 園田中尉のことですか」

「いんや」

「じゃ、何なんです?」

 困った顔の軍曹を後目に、ニンマリと勝ち誇った鳥坂中尉はこう言ってのけた。

「自分がほんっとにノーテンキなバカ軍人だってことに、な?」

「なんでそこで、そうなるんです!?」

 当然のごとく、軍曹は怒った。

「自分たち二人のことを言われてんですから、もっと他に言うことあるでしょうが! それをなんですか、あなたは。自分だけイイ子になろうとして僕だけに“バカ軍人”押しつけて、自分は関係ないってことですか?
 そんなことだから部下に信用されないんですよ!」

「むむ、何を言うか! ウチの部下とは、他人にゃ見えない鎖のような信頼関係で結ばれてんの!」

「どこに!?」

「ここに!!」

 鳥坂中尉は、あろうことかマジな顔で腕を突き出した。
 こりゃもう正気の沙汰じゃあ、ない。

「・・・よくもまあヌケヌケと腕なんか出しちゃって。すこしは恥ずかしくないんですか、少しは!?」

「・・・ちょっと」

「いまさら言うセリフか!!」

 思わずツッコむ、諒軍曹と俺。

「それに中尉が次に言いそうなことぐらい、もう検討ついてんですからね!」

 軍曹が、いきなり勝気にでた。

「ほ〜う? なんなら言ってごらん、遠慮なくどうぞ?」

 いまだ余裕をかます鳥坂中尉、よくやるよ。

「どうせ“ごめんクサい! チャンチャン!!”とかいって、スッとぼけるつもりだったんでしょう!!」

「ムムム・・・」

「図星でしょう!?」

 強気でせまる軍曹に、またまた中尉はこう言ってのけた。

「ムムゥ、実に惜しい! 正解は“ごめりんこ!!”だったりして・・・」   

「・・・」

「・・・」

「・・・最低ね」

 これは、アヤちゃん。
 しかし、皆の気持ちを率直に代弁した、実に効果的な一言であったことは、間違いない・・・。

「マスター、コンニチワ」

 園田中尉はまっすぐカウンターまでくると、ニヤリ、と笑いながら鳥坂中尉のとなりへ腰を降ろした。

「なんだよ、気持ち悪い」

 自分のことを棚に上げて、鳥坂中尉はいった。

「いえいえ」

「いえいえ、じゃない」

「なんでもないったら」

「お前に限って、絶対そんな訳無い!」

「うたぐり深いヤツは、モテねーぞ」

「あ、ホント?・・・、って関係ないだろ、それ」

「それが、おおありなんだなぁ〜」

「え? 何?」

 園田中尉の“意味深なセリフ攻撃”に、鳥坂中尉はめずらしくうろたえた。
 普段、他人をからかっては遊んでいるクセに、なぜか園田中尉にはよく引っかかるんだよな、鳥坂中尉は。
 園田中尉は、というと、これがけっこうお茶目なほうでね、確信犯的にみんなを驚かせては、ひとり楽しんでるのだ。
 まったく、ウチには変人ばっかり寄りつくんだから、しかも馴染んでるしな、みんな・・・。

  「ややや、やっぱりなんかあるんじゃないか、ねえ?」

 さっきまでの勢いはどこへやら、とうとう“絶不調中尉”は隣の諒軍曹に助けを求め始めた。

「そんなに気になるんだったら、直接園田中尉に聞きゃあいいでしょ。僕には何のことか、わかんないんだから」

 諒軍曹の言い分は、もっともである。

「そーだ、男らしく無いぞ、モテないぞ」

 これは、俺。

「やーい、やーい、モテナイ君、モテナイ君!」

「ベリアル隊のみんなにも、いってやろーっと!」

「いってやれ、いってやれぇ!」

「え? で、何を言うんです?」

「モテナイ君、モテナイ君!」

「あ、そうかあ」

「ちょーっと、待てい!!」

 たまらず、鳥坂中尉が割り込んだ。

「なにが、あ、そうかあ、だ。なんで俺がモテナイ君って、言いふらされなきゃなんないの! ・・・大体、どこで話がずれたんだ。話変えたヤツは誰だ!?」

 おお、復活したな、やっぱり鳥坂中尉はこうでなくちゃ。

 でも、相変わらず園田中尉の優位はかわんないけどさ。

「そういやそこのウエイトレス! さっきスネて向こうに行ったはずじゃなかったっけ? なんでいつの間に戻ってきてて、しかも一緒に笑ってんだよ?」

 さらに鳥坂中尉が吠えた。

「アタシ、さっきからいたもーん」

 ほんと、いつ戻ってきたんだか、アヤちゃんがカウンターの中でくつろいでいた。

「なんかいってたろ?」

「い、いってないもーん」

「カワイコぶってんじゃない! どうもさっきから、やけにカン高い声で“モテナイ君”を連呼するヤツがいるなと、思ったら・・・。やっぱしおメェか!!」

「アタシじゃないもん!」

「じゃ。誰よ!?」

 一瞬の間のあと、彼女はこうのたまった。

「・・・幻聴にきまってるじゃなーい」

「・・・(鳥坂中尉の絶句)」

 やれやれ、泣く子と女にはかなわん。

「それで、結局ホントの所はなんなんですかぁ、園田中尉?」

 諒軍曹が、固まったまま動かない鳥坂中尉の代わりに核心をついた。

「ほんと、いったいどうしたんです?」

 すかさず、俺も聞いた。

「何が?・・・あぁ、だから、ほんとに何もないんだって」

 しらっと、園田中尉は何もなかったのように答えた。

「え?」

「だって、おおありだとかなんとか・・・」

 めげずに諒軍曹が、食い下がった。

「ああ、あれね。うんうん。だって、うたぐり深いヤツってモテないでしょ?

 だから、それだけ」

「へ?」

「でも、関係あるとかないとか・・・」

「関係なくないよ
 だって、何にもないのに鳥坂中尉が勝手になんかあるって、うたぐり深いからさ・・・、
それじゃぁモテないよって言ったら、“(うたぐり深いのは)関係ない”っていうんだもんなー。
おおありだよね、うん」

「・・・(全員の絶句)」

「みんな、そう思うでしょ? ね?
 うたぐり深い男が彼氏なんて、女の子がカワイソウだよねー」

 しみじみと、園田中尉は語り始めた。

「・・・なんかずれてるよな」

と、俺。

「・・・ええ、そう思います」

 陸の上ではまともらしい(?)、諒軍曹が答えた。

 前言撤回。園田中尉が確信犯なのか、それとも真に本気なのか、もう俺にはわからなくなってしまった。
 いままでは確信犯だと思ってたけど、こりゃひょっとすると本物かもな。

 まあ、そのおかげで、鳥坂中尉が今日中に立ち直るのはかなり難しいだろうなということだけは間違いない事実なわけなんだけどさ。

「やれやれ。今日も、まだまだ一日終わりそうにないな」

 ひとりごちてしまう、ある日の午後なのであった・・・。




「仮想ドラマ」目次に戻る