2001年秋に発表されて話題になっていたMaxtor製の
160GB HDD(DiamondMax D540X 4G160J8)が12月になってようやく発売されました。1インチハイトの普通の3.5インチHDDの筐体で160GBという大容量を実現したHDDです。IDEの論理的な容量上限値137GBを初めて超えたHDDでもあり,いろいろと興味深い製品だと言えます。さっそく1台買ってきて調べてみましたのでレポートします。
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IDEインターフェイスのHDDには昔からさまざまな
容量の壁がありました。古くは528MBの壁に始まり,2.1GB,8.4GBといったさまざまな壁にぶつかっては,その都度BIOSを改良したり,規格を改訂したりして乗り越えて来ています。528MBを超えた時点で
LBA方式によって管理する方法が導入されましたが,それでも管理できるブロック数(28bit値)には限りがありました。28bitのブロック数で管理できる容量は次の計算により約137GBとなります。
512 bytes × 2^28 = 137,438,953,472 bytes
10年間で3桁という驚異的なHDDの容量増加は,遠い未来かと思われていた137GBの壁をあっと言う間に現実のものにしてしまいました。
この137GBの上限を超えるために,Maxtor社の主導で新しいIDEの拡張仕様が作成されています。これは
Big Driveと呼ばれており,LBAを48bit値に拡大して管理するものです。48bit値とすることで,上限はこれまでの100万倍以上の144PB(
ペタバイト)に拡大されました。
512 bytes × 2^48 = 144,115,188,075,855,872 bytes
Big Driveは次世代のATA-6規格に正式採用される見込みです。
160GB HDDをフルに活用するためには,Big Driveに対応したIDE I/Fとドライバが必要です。今のところ,Big Driveに対応していることが分かっているのは次の2つの製品です。
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写真2.Promise Ultra133TX2
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Ultra133TX2は
Promise社が製造しているPCIバス用のUltra ATA133対応IDE I/Fです。Ultra ATA133対応I/Fは他社も出していますが,他社製品がBig Driveに対応しているかどうかは不明です。Ultra ATA133対応の製品が
すべてBig Driveに対応しているとは限らない点に注意してください。
i810以降のintelチップセットマザーボードの場合は,intelから無償提供されている
IAA(Intelアプリケーション・アクセラレータ)というソフトウエアをインストールすることによって,追加ハードウエア無しで160GBを認識させることが可能です。ただしこの場合,正常に認識するのはWindows上に限定されます。つまりBIOSやDOSレベルでは正しく認識しない点に注意する必要があります。
私の使っているPCはいまだに440BX/440GX機ですので,必然的にUltra133TX2とセットで購入することになりました。
440BXマザー(
ASUS CUBX)のIDEコネクタやPromiseの旧版のUltra ATA I/Fにつないでどう認識されるのか試してみました。結果は以下の通りです(いずれも最新のBIOSとドライバを使用)。
表1.各種IDE I/Fでの認識
認識 |
ASUS CUBX |
Promise Ultra66 |
Promise Ultra100 |
Promise Ultra133TX2 |
BIOS認識 |
△ |
△ |
○ |
○ |
fdisk (Windows 98SE) |
△ |
△ |
△ |
△ |
Windows 2000 |
137GB |
137GB |
137GB |
○ |
△:認識はするが容量が不正(オーバーフロー)
○:正しい容量(160GB)で認識
Big Drive対応のUltra133TX2は当然ながらBIOSレベルで正しく認識しますが,一世代前の製品であるUltra100のBIOSでも正しく認識したのは予想外でした。しかしWindows 2000上ではUltra133TX2だけが正しく認識し,他の場合はいずれも137GBのHDDとして認識しています。
この137GBとして認識した状態で実際に使ってみましたが,特に問題なく使えるようでした。従来型のIDEの仕様でアクセスできる範囲で正しく使えるということのようです。HDD自体には137GBで制限するようなジャンパ設定等は特にありません。
一方,Windows 98SEではいずれの場合もfdiskが正しい容量を認識しないという問題がありました。Ultra133TX2で接続し
PartitionMagicでフォーマットしてやれば,Windows 98SEから正しい容量(160GB)で使うことはできましたので,これは単にfdiskが137GBを超えるHDDに対応していないというだけの事のようです。
Promise社のUltraシリーズはドライバが共通化されています。そこで,試しにUltra133TX2に付属していたドライバを,Ultra100搭載PCのWindows 2000にインストールしてみました。
驚いたことにちゃんと160GBのHDDとして使えるようになってしまいました。もちろん同社から正式にアナウンスされていない使い方です(このドライバはUltra100用としてはまだリリースされていません)から,何か不具合が発生しないという保証はありません。しかしともかく動いてしまいました。
一方,Ultra66についても同じことを試してみましたが,こちらはドライバを入れるとWindows 2000が起動しなくなりました。
これは使用しているIEEE1394−IDE変換チップがBig Driveに対応しているかという話になりますが,現在流通しているIEEE1394 HDDケースのほとんどはまだ対応していないと考えられます。実際,手元にある変換チップOXFW911を使ったHDDケース
mathey(
iMPT3500のOEM製品)に入れて試してみましたが,やはり予想通り137GBのHDDとして認識されました。
この状態で使う分には特に問題はないみたいなので,残り23GBは諦めて137GBのIEEE1394 HDDとして使うというのもアリかなと思います。
なお,最近(1/25)になってMaxtor社からこの160GB HDDユニットを使ったIEEE1394外付けHDD製品
Personal Storage 3000XTが発売されました。どういう変換チップを使っているのかは不明ですが,160GBのHDDとして使用できるようです。店頭予想価格は54,800円ということなので,変換基板とケースのコストを考えると割安感がある製品だと言えます。
一言で言えば今時の普通の5400rpm IDE HDDだなという感じです。騒音についてはさすがに静音性で評価の高いSeagate ST380021Aよりは大きめですが,特別不快に感じるような音でもありません。性能もベンチマーク(
HDBENCH 3.30)の結果は以下の通りで5400rpm製品としては十分な速さです。ATA133/ATA100接続時で性能の違いはありませんでした。
表2.HDBENCH 3.30による性能評価 (KB/sec.)
製品 |
Read |
Write |
Copy |
備考 |
Maxtor D540X 4G160J8 |
34477 |
35407 |
9540 |
160GB/5400rpm/40GBプラッタ |
Seagate ST380021A (参考) |
41727 |
37440 |
19346 |
80GB/7200rpm/40GBプラッタ |
この160GB HDDは接続I/FやOSの対応で多少注意する必要がありますし,価格的にも一般的な80GB HDDの2倍以上しますのでそれほどコストパフォーマンスが良いわけではありません。しかし3.5インチベイ1つで160GBを確保できるメリットは大きいと言えます。ビデオ編集やファイルサーバーなどのためにとにかく大容量のHDDが欲しいという人には良い選択になると思います。